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ハラスメントとは?その定義と判断基準について【2024年最新版】

更新日:2024.01.24

ハラスメント(英:harassment)とは、直訳すると「嫌がらせ、いじめ、迷惑行為」となります。過重労働や働き方改革とあわせて、近年大きな関心を集めているのが職場におけるハラスメント行為です。

2018年に労働基準監督署などに寄せられた労働相談で、民事上の個別労働紛争に関する相談は約26万6,000件。そのうち約30%を、上司からの嫌がらせやセクハラといったハラスメント事案が占めています。(厚生労働省『平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況』)また、2019年に発覚した神戸市の公立小学校で起きた職員によるいじめ事件では、加害者が撮影したショッキングな動画が公開され、大きな話題となりました。

こうした凄惨なハラスメントを未然に防ぐには、具体的な行為と、その影響についてきちんと理解しておくことが欠かせません。当記事では過去の事例とあわせて、ハラスメントの定義や種類、判断基準などを解説します。

記事監修 社会保険労務士/坪 義生(じんじ労務経営研究所代表)
記事監修 社会保険労務士/坪 義生(じんじ労務経営研究所代表)

労働保険事務組合鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。千葉大学大学院社会科学研究科修士課程修了(経済学)。91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆。中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書『社会保険・労働保険の実務疑問解決マニュアル』(三修社)など。

ハラスメントの定義と種類

定義のイメージ画像

ハラスメント(harassment)とは、「いじめ、嫌がらせ」のことであり、当事者の関係や言動によって多くの種類があります。

日本では、男女雇用機会均等法が施行された1985年には、性的嫌がらせであるセクハラ(セクシャルハラスメント)については規定がありませんでしたが、その後、1997年の改正で初めて事業主の配慮義務として盛り込まれました。

厚生労働省では、「職場で行われる労働者の意に反する性的な内容の発言や性的な行動によって、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること」をセクハラ、
「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素全てを満たすもの」をパワハラとして定義しています。

また、詳しくは後述しますが、飲酒を強要するアルハラ(アルコールハラスメント)や、妊娠中・育児中の女性に対して嫌がらせを行うマタハラ(マタニティハラスメント)などもハラスメント行為の一種です。

5つの事例から学ぶハラスメントの実態

苦しむ社員のイメージ画像

ハラスメント行為が発生する環境、そしてその影響について、ここからは過去で実際に起きた事例をご紹介します。

①埼玉県の病院でのパワハラ訴訟

埼玉県北本市の病院で准看護師として勤務していた男性が、上司の男性から業務に関係のない行為(家の掃除、洗車、買い物など)を繰り返し強要されていました。
そのうえ、業務中にも「死ね」「殺す」といったメールを送られ、心身症を患ったのちに自殺。遺族は原因をパワハラとして裁判所に提訴し、訴えが認められた結果、加害者には1,000万円、病院と加害者の連帯責任として500万円の賠償金が課せられています。

②北海道のホテルにおけるパワハラ訴訟

北海道のホテルに料理人兼パティシエとして勤務していた男性が上司からのパワハラを訴え、訴訟を起こた事件です。
被害者の男性は、上司から繰り返し暴言を受けたり、飲酒を強要されていました。適応障害を発症し、休職中の契約期間満了にともない、自然退職扱いで退職。これを不当とし、賃金と慰謝料の支払いを求めて裁判所に訴えました。
判決では適応障害とパワハラの関連性は認められなかったものの、精神的苦痛を与えた慰謝料として、被告に150万円の支払いが命じられています。

③京都の大手消費者金融会社のセクハラ・パワハラ訴訟

大手金融会社に勤める女性が、強制参加の食事会で上司から身体的な接触や性的な発言を受けていました。
女性はこれにより体調を悪化させて休職に追い込まれ、裁判所に提訴。判決では原告の主張が認められ、被告と会社側には休職していた期間の未払い賃金約70万円と、パワハラに対する賠償金110万円の支払いが命じられました。

④東京の広告会社のセクハラ訴訟

1997年に東京の広告会社で起きたセクハラ訴訟です。

原告の女性はオフィスで会社の代表と2人きりになった際、無理やり抱きつかれたり、生理の周期を聞かれたりするセクハラを受けていました。こうした行為を女性が拒絶すると、代表は威圧的な態度をとるようになり、結局女性は解雇されました。

これを不服として女性が裁判所に提訴したところ、人格権を侵害する不法行為、解雇権の乱用が認められ、被告の代表に賠償金100万円の支払いが命じられています。

⑤神戸の大学におけるアルハラ訴訟

2008年に神戸市の大学で起きた事件です。

部活動の合宿中、部の「決まり」として、男子学生13名が4リットルの焼酎の回し飲みを強要されました。そのうちで意識を失った1人が朝まで放置され、病院に運ばれましたが、急性アルコール中毒による吐しゃ物の窒息で死亡。遺族はアルハラの事実認定と損害賠償を求め、訴訟を起こしました。

裁判では被告側がアルハラの事実を認めたことで和解が成立し、原告が和解金・見舞金を支払ったうえで、大学が全面的な再発防止策を講じることになりました。

「パワハラ防止法」で求められる企業の義務とは?

会議で相談するイメージ画像

ハラスメント行為への社会的な関心が高まるなか、政府は2019年5月に労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)を国会で可決。パワハラについて定義するとともに、企業での対策を義務化しました。

この法律によって、企業では具体的にどんなことが求められるようになるのでしょうか?

2020年から義務化されたパワハラ対策の内容

パワハラ防止法では、パワハラを前述のように「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの」と定義し、企業への対策を求めています。

施行時期については大企業が2020年6月、中小企業については2022年4月からの見込み。いまのところ罰則規定は設けられていないものの、違反した場合、行政から指導・勧告を受けたり、社名を公表されたりする可能性があります。

企業に対して義務化されたポイントは大きく以下の3点です。

1.パワハラに対して事業主自らが理解・関心を深めること

条文では「事業主は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない」とし、経営者・役員が率先して職場でのハラスメント対策に取り組むよう定めています。社長だからといって業務の範疇を超えたところで高圧的な態度をとったり、社員を誹謗中傷したりするのは当然NGです。

2.従業員の理解・啓蒙を深める措置をとること

ハラスメントを未然に防ぐためには、事業主に加えて従業員1人ひとりの規範意識も大切になってきます。今回のパワハラ防止法では具体的な施策までは触れられていないものの、ハラスメントへの理解・関心を深めるためには、就業規則にパワハラに関する項目を加えたり、従業員向けの相談窓口を設けたり、定期的に研修を行なったりする必要があるでしょう。

3.相談などをした従業員を不当に取り扱わないこと

「5つの事例から学ぶハラスメントの実態」でもご紹介したように、ハラスメント行為を訴え出た社員が、二次被害を受けたり、解雇されてしまったりするケースは決して少なくありません。パワハラ防止法ではそうした職権の乱用や、被害者に対する不当な取り扱いも禁止しています。

パワハラと共にセクハラも規制強化

セクハラもNGのイメージ画像

今回施行された「パワハラ防止法」に伴い、男女雇用均等法のセクハラ防止対策の強化についても改正され、セクハラに対する事業主と労働者の責務を明確化するとともに、事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いが禁止されました。
また、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行い、他社の実施する雇用管理上の措置(事実確認等)への協力を求められた場合、これに応じるよう努めることとされました。

ハラスメント対策の課題と解決策

相次ぐ訴訟や過重労働問題などを背景に施行されたパワハラ防止法ですが、その実効性を疑問視する声は決して少なくありません。前述のとおり罰則規定が設けられていないうえ、ハラスメントの定義そのものにもまだまだあいまいな部分が残っているからです。

そういった点でハラスメント行為を防ぐためには、法律に寄りかかるのではなく、できることから地道に実践していくのが大切。たとえば厚生労働省は「あかるい職場応援団」というwebサイトに、FAQ方式でハラスメント診断が受けられるツールを用意しています。

「パワハラかなと感じることはあるけど、断定が難しい」、「具体的にどうしたらいいかわからない」といった場合は、こうしたツールの活用から始めてみるのも1つだと思います。

人事が対策すべき4つのハラスメント

ポイントのイメージ画像

最後に人事が対策すべき4つのハラスメントについて、ケース別に解説していきます。

①上司から部下へのパワハラ

同僚からの暴力・罵詈雑言、業務の押しつけなど、パワハラにはさまざまな形があるものの、訴訟に発展した事例などを見る限り、やはり最も多いのが上司の立場を利用した部下へのパワハラです

立場上反論できないことを盾にとって部下の身体的な特徴を揶揄したり、人間性を批判したりするのは言うまでもなくパワハラです。しかし、当事者にはそうした意識が薄く、あくまで部下への指導・叱責の延長のつもりでパワハラ行為を重ねた結果、部下を退職させたり、最悪の場合自殺に追い込んでしまったりすることも少なくありません。

こうしたパワハラを防ぐためには、啓蒙・周知活動を通じて、業務の範囲を超えた言動=パワハラ=違法行為という認識をしっかり根づかせることが大事です。

たとえば、前述の「あかるい職場応援団」では、パワハラ対策の導入マニュアルを無料で配布しているので、そうしたツールを利用してマネジメント層向けのガイダンスなどを行なうのも1つの手でしょう。あるいはパワハラ問題に精通した社労士事務所や研修会社にセミナーを依頼するのも効果的です。

そのうえでパワハラが発生した際にスムーズに対処できるよう、社内に秘密厳守の相談窓口を設けておきましょう

②従業員へのセクハラ

セクハラを拒絶するイメージ画像

厚生労働省の発表によると、2018年に労働局などに寄せられたセクハラに関する相談は、前年比12.2%増の約7,600件。社会問題として広く認知されているにもかかわらず、依然としてセクハラによる被害は増え続けています。

セクハラのタイプは大きく2つ。評価や昇進、人事異動などを条件に性的関係などを強要する「対価型セクハラ」と、性的な会話やジョークを繰り返したり、異性が不快に感じるポスターなどをオフィスに貼ったりして職場環境を悪化させる「環境型セクハラ」です。

前者の場合は、加害者側も自覚的であることが多いため、まずはセクハラを受けた社員が気兼ねなく相談できる体制を整えておくことが大切です。人事や総務に相談窓口を設ける、あるいは社労士やカウンセラーを社内に常駐させる、といった対策が考えられます。

一方で後者の場合、当事者の意識が薄く、職場におけるコミュニケーションの一環のつもりで重ねた行為が異性を傷つけていることも少なくありません。パワハラと同様、ガイダンスや研修・セミナーといった啓蒙活動を通じて、業務の範疇を超えて精神的なダメージを与える言動=違法行為という認識を根づかせるのが大切になってきます。

③子どもを持つ女性へのマタハラ

妊娠した女性のイメージ画像

出産を控えた女性社員や育休から復帰した女性社員に対して、不適切な言動を繰り返すマタハラ(マタニティハラスメント)。女性側からすれば、育休や時短勤務といった会社の制度を利用して、育児と仕事を一生懸命両立させているだけです。にもかかわらず、心ない言葉や不条理な扱いによって精神的にダメージを負い、退職に追い込まれてしまうケースが少なくありません。

こうしたマタハラを防ぐために大切なのは、出産や育児に対する誤ったマイナスイメージを払拭することです。

ガイダンスや研修開催のほかにも、育休から復帰した女性社員を表彰する制度を設けたり、育児と仕事を両立させている社員のインタビュー記事を社内報や従業員向けのポータルサイトで発信したりするのも効果的です。啓蒙活動を通じて「子どもを産み、子育てしながら勤務するのは当たり前のこと」、「うちの会社はママ社員を全面的に応援している」といった空気感が生まれれば、おのずとマタハラも減っていくのではないでしょうか。

④社外でのアルハラ

お酌するイメージ画像

上下関係などを利用して飲酒を強要するアルハラ(アルコールハラスメント)。法律や指針で防止対策措置が定められているわけではありませんが、取引先の接待や部署内での宴会など、第三者の目が届きにくい環境で起こるうえ、周囲の人間もお酒が入り判断力を欠いていたりすることによって、時として重大な事故を引き起こします

アルハラを防止するには、やはり会社側の啓蒙活動が欠かせません。研修やガイダンスを通じて、急性アルコール中毒の危険性、アルハラによって起きた訴訟、賠償金の額などを周知徹底しましょう。

またあるIT関連企業では、毎年新入社員向けにアルコールパッチテストを行ない、アルコールの分解能力が低い体質の社員にはそれを示すカードを携帯させることで、アルハラによる事故を未然に防いでいます。

【まとめ】

今回は職場におけるハラスメントをテーマに、ハラスメントの定義や種類、過去の事例、対策方法などについて解説しました。

パワハラやセクハラについては判断基準が難しく、対策も一筋縄ではいかない部分も多々ありますが、今回ご紹介した内容が少しでも人事や総務担当の方の役に立てば幸いです。

なお、アイミツではハラスメント問題に精通したコンシェルジュが常駐し、みなさまからのご相談を無料で承っています。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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坪 義生
監修者

坪 義生

じんじ労務経営研究所代表 / 労働保険事務組合鎌ヶ谷経営労務管理協会会長 / 清和大学法学部非常勤講師
資格
社会保険労務士

千葉大学大学院社会科学研究科修士課程修了(経済学)。「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事を中心に人事制度の取材・執筆。中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書『社会保険・労働保険の実務疑問解決マニュアル』(三修社)等。

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