IT業界にいるなら知っておくべき「株式交換」というM&A手法

IT業界にいるなら知っておくべき「株式交換」というM&A手法

更新日:2017年11月29日 | 公開日:2017年08月29日

2015年3月25日に、株式会社スタートトゥデイ(以下、「スタートトゥデイ」といいます)が株式会社アラタナ(以下、「アラタナ」といいます)を簡易株式交換によってM&Aをするというニュースが流れました。

M&Aのひとつの手法として活用される「株式交換」ですが、その取引の中身がわからないという方向けに、今回はこのニュースを活用して解説していきます。

株式交換とは?

株式交換とは、株式を対価物(X)と交換する取引です。

ここで対価物をXとしたのにはとても重要な意味があります。
実は株式の取得対価と言うのは、株式でなくても良いのです。

例えば、株式を社債と交換しても良し、対価に見合う資産と交換しても良し、新株予約権と交換をしても良いのです。
ですが実務上、多くは株式の交換対価として株式が使われることが多いため、今回は株式と株式とを交換する株式交換をテーマに話を進めていきます。

株式交換の取引

今回取り扱う株式交換は、「株式の取得対価として株式を交付する取引形態」という話をしました。
それでは具体的に、スタートトゥデイとアラタナとの関係をテーマに取引の内容を見て行きましょう。

2015年3月25日、スタートトゥデイは株式交換を通じてアラタナを完全子会社にすると発表しました。

株式交換の取引の流れ
  • スタートトゥデイがアラタナの株式をすべて取得
  • その取得対価としてスタートトゥデイの株式をアラタナの株主に交付
  • スタートトゥデイがアラタナを完全子会社にする

という取引です。
(下図をご参照)

株式交換の取引の流れ

実例を使うと非常にわかりやすく株式交換という取引を整理することが出来ます。
それでは次に、株式交換のメリットとデメリットを見て行きましょう。

株式交換のメリット・デメリット

買い手と売り手に分けて、代表的なメリットとデメリットをご紹介します。

買い手のメリット・デメリット

メリット
  • 買収に現金が不要
  • リスクを売り手にも負担させられる
デメリット
  • 手続きの分量が多い
    (株式譲渡、事業譲渡に比べて。ただし、簡易株式交換の場合は省略できる手続きあり)

売り手のメリット・デメリット

メリット
  • 買い手企業の価値向上によって大きな利益を得られる可能性
デメリット
  • 未上場の株式を交付された場合は、現金化しにくい
  • 買い手企業の価値下落によって利益が減少する可能性
  • 手続きの分量が多い

買い手にとってはM&Aを行うための現金を準備することが不要になることや、仮にM&A後にうまく行かなかった場合のリスクを売り手にも負担させることができるというメリットがあります。

また売り手にとっては、買い手となった企業が業績を拡大させていくことによって、大きな利益を得られる可能性があるというメリットがあります。
これから成長していく企業同士にとっては、お互い企業価値を高めるために力を尽くすインセンティブをもたらすとても良い取引です

しかし、仮に業績が悪くなった場合に売り手は当初期待していた金額を得られなくなる可能性もあります。
もし株式を譲渡し、現金化していれば利益は確定されますが、株式交換では利益が確定されないというデメリットがあります。

もし、株式譲渡と株式交換のどちらにしようか迷った時には、売り手の年齢を考慮します。
一概には言えませんが、退職をするような年齢であれば株式譲渡を、それより若く、一緒に企業グループを盛り上げられるのであれば株式交換を選ぶのが得策でしょう

ケーススタディ

会議中

株式交換比率

株式交換を行う際、株式交換比率がとても重要です。
スタートトゥデイとアラタナの場合は、以下のような株式交換比率です。

【スタートトゥデイ普通株式:アラタナ普通株式=1:117.3】

これはアラタナ株式1株を取得する対価として、アラタナ株主へスタートトゥデイの株式を117.3株交付するという意味です。

この株式交換比率は、お互いの株式価値を算出して決定します。
どのように交換比率が決まってくるかは、次のケーススタディを通じて見て行きましょう。

種類株式

前出のとおり、スタートトゥデイはアラタナの株式を株式交換により取得し、完全子会社(=100%子会社)としました。
株式交換比率をすべて記載すると、

新株予約権行使後

となります。
「普通株式」は1つの株式に与えられる権利が原則平等である(1株持っていると、全員に等しく1つの議決権がある等)のに対し、「種類株式」は権利の内容が異なる株式です。

ここで出てくるB種種類株式とC種種類株式が、普通株式と異なる点は以下の通りです。

B種種類株式とC種種類株式が、普通株式と異なる点
  • 優先分配(参加型):B種種類株式×1.2 > C種種類株式×1.1 > 普通株式
  • 金銭対価取得請求権:B種種類株式×1.4、C種種類株式×1.22(2017年8月以降いつでも)

つまり、B種/C種種類株式は、「普通株式よりも優先的に多く配当等の分配を支払い、さらに2017年8月以降はいつでも元の出資額のそれぞれ1.4倍/1.22倍で買い取ってくださいよ。」
と会社に請求できる権利が付与されている株式ということになります。

そのため、株式交換比率についても普通株式よりも有利な内容(1株あたりに交付されるスタートトゥデイ株式が多い)になっています。

株式価値

ここからがいよいよ面白いところで、株式価値について見ていきます。
まずはアラタナという会社がどのような資本政策を行ってきたか見て行きましょう。

アラタナが設立された以降の資本政策についてまとめました。
なお、引受先と引受株数等については当社の推測が一部含まれていますので、ご参考までにしてください。
推測とは、ジャフコ社が最初に投資をした際に、既存株も取得しているのではないか?

また、大きな金額の転換社債を引き受けられるのはジャフコ社とみずほキャピタル社なのではないか?などというあたりです。

アラタナが設立された以降の資本政策

以上よりM&A前の時価総額は約19億円と推測できます。
ちなみにですが、2014年4月決算において、アラタナは約18百万円の経常赤字という業績状況です。

他方、M&A時点においての時価総額についても考えていきます。
株式交換によって交付されたスタートトゥデイの株式数は915,313株でした。
(今回、スタートトゥデイの株式は自己株式を用いることで株式交換を行っています)

2015年3月25日の株価(3,180円)で仮に計算すると、約29億円です。
すごいですね。
転換社債がすべて普通株式に転換され、期限の到来している新株予約権がすべて行使されたとき、アラタナの発行済株式数は6,672株(表の最下段の株式数)です。

また株式交換前のファイナンスが1株280,000円ですから、1.55倍です。
B種種類株式の金銭対価取得請求権の1.4倍を軽く超えて、VC(ベンチャーキャピタル)関係者は喜んでいることでしょう。

なお、このレポートを書いている2015年8月18日のスタートトゥデイの終値が4,265円ですから、更に利益が膨らんでいるということになります。
例えばアラタナの普通株式を1,000株持っていた場合、スタートトゥデイとの株式交換によって、アラタナの株式はスタートトゥデイ株式117,300株に交換されます。
株式交換発表時の時価評価で約3.7億円、そして現在では約5億円になっています。

最後に

成長企業×成長企業というM&Aの組み合わせに、株式交換という方法は向いています

株式市況が良好であることを背景に、上場しているIT関連企業×未上場のIT関連企業というこの下期以降案件が増えると予測しています。
自力で成長のスピードを上げられない時、目標を同じにしてお互いの利益のために力を尽くせる株式交換というM&Aの方法も検討してみましょう。

たとえ足元の業績が赤字であったとしても、将来性を代表者が確信を持って語れれば、違うステージへの道がひらけます。